戦後日本を悔いるな、憲法60年の年明け
キリマンジャロのような高い山が、次第に雪が消えつつある。氷河はあちこちで「元氷河」になり、北極や南極の崩れている。このまま進むと世界の陸地がどんどん海になり、陸上の水は減って行く。
ニューオリンズで襲った恐怖なハリケーンなど最近の異状気象も、海水の温度上昇と無縁でない。大気中に増える二酸化炭素(CO2)を何とか抑え無ければ地球の温暖化はやまず、やがて取り返しのつかないことになる。
米国の元副大統領のアル・ゴア氏が伝道師のように世界を歩き地球の危機に警鐘を鳴らしている。1月に日本で公開される記録映画「不都合な真実」はそれを伝え衝撃的だ。
人間暮らしを豊にする技術の進歩が地球を壊していく皮肉だ。だが、深刻なのはそれだけでない、人が人を憎み、殺し合い、社会を壊す。進歩のない人間の浅ましさが今世界を脅かす。
今年の正月はイスラム教の「犠牲祭」に重なった。神に感謝して、ヒツジを犠牲にし、みんなで食べる大祭だが、イラクの人々はお祭り気分にほど遠くないか、戦争開始から、4年近くがたったのに自由と民主的な国の訪れは遠く、まるで自爆テロの国となってしまった。
市民の死者はすでに、5万人数千人。停電や断水は絶えず、石油は高騰、避難民は50万人に達し、崩壊国家に近づいている。米・英兵の死者も3千人を超えたが、兵を引けないジレンマが続く、ブッシュ政権は、中東の混乱に拍車をか世界を不安定にさせてしまった。
ゴアとブッシュ氏ーーー6年前に大統領選の行方を決めたフロリダ州の開票は世界の行方も左右した。
CO2削減を決められた京都議定書にブッシュ政権は背を向けた。米国は圧倒的なCO2排出国なのに何と鈍感なことか。一方で国際世論の反対を押し切ってイラク攻撃へと突き進んだ、軍事の過信である。
この5月日本国憲法は、施行60周年を迎える、人間ならば今年還暦・朝日新聞は、其れを機にシリーズ「新戦略を求めて」を締めくくり、日本のとるべき針路を提言する。ゴア氏が訴える危機とブッシュ氏が招いた危機そこに大きなヒントがある。
悲願だった教育基本法の改定は終え次か憲法だ。そう意気込む自民党の改憲案で最も目立つのは9条を変えて「自衛軍」を持つことだ。安倍首相h任期中に実現を目指すといい、米国の集団的自衛権を認めようと意欲を見せる。
自衛隊のイラク撤退にあたり、当時小泉首相は「一発の弾を撃たず一人の死傷者も出ささなかった」と胸を張った。幸運もあたにせよ交戦状態に陥る事をただすら避け、人道支援に、徹したからだった。それは、憲法9条があったからにほかならない。
もし、名実とも軍隊をもちその役割を拡大させていたなら、イラクでも英国のように初めから戦争参加を追われていただろう。そうなれば、一発の弾を撃たないでは済まない。間違った戦争とならば、なお悔いを残したに違いない。
勿論、国際社会が一致して当たる場合は、知らん顔は出来ない。テロ組織の基地を標準としたアフガニスタン攻撃はその例だった。
自衛隊は何処まで協力し、何処で踏みとどまるか「憲法の制約」と言うより「日本の哲学」として道を描きたい。
昨年初め嬉しいニュースがあった。英国のBBCなどによる世界33カ国調査で日本が「世界によい影響を与えている国・地域で2位になったのだ。1位は欧州だあが、国家としてはフランス、英国を抑えて堂々のトップ。小泉首相は「日本の戦後60年の歩みを国際社会が正しく評価している」と喜んだ。その通りである。
「GNP(国民総生産)」ならぬ「GNC」とは、米国ジャーナリストのダグラス・マッグレイ氏が作った言葉だ。Cはクールで「カッコイイ」の意味だからGNCは「国民総かっこよさ」か。日本は世界で群を抜くという。
アニメ・漫画・ゲーム・ポップス・ファション・食文化・・・・。どの分野でも日本が世界やアジアをリードしていると言うのだ。そういえば、最近パズルの「独数」が世界のsudokuだ。そうした事がBBCの結果に繋がったのだろう。
映画「不都合な真実」では、排ガスのCO2削減が企業の評価を高めている。例として、トヨタ、ホンダを挙げている。米国車とは対照的だ省エネや環境対策といった日本の得意技は、これからも最も役立てる分野である。
軍事に極めて抑制的でない事を「普通ではない」と嘆いたり恥ずかしいと思ったりする必要はない。安倍首相は「戦後レジュームからの脱却」を掲げるが、それは一周遅れの発想ではないか。むしろ戦後日本の得意技を生かして「地球貢献国家」とでも宣言したらどうか。
エネルギーや食料・資源の効率化にもっと知恵や努力を傾ける途上国の援助は増す国際機関に日本人をどんどん送り込み海外で活動するNGOも応援する。そうしたことは日本人が元気を取り戻す事にも通じよう。
「軍事より経済」で成功した戦後日本である。今「やっぱり日本も軍事だ」となれば世界にその風潮を助長してしまうだけだ。北朝鮮のような国に対して「日本を見ろ」と言えることこそ、いま一番大事なことである。
以上2007年1月1日朝日新聞朝刊社説より。
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